「寒さでiPhone死ぬ」という記事

つい最近、そういう記事がYahoo!に出ていました。

 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160114-00000002-jct-sci

 

「寒くなるとiPhoneの電源が落ちる」

「都内の修理店はそれはありえないと言った」

「Appleは理由を答えてくれなかった」

 

という内容です。

 

その下のコメントをみると、「寒さでバッテリーが力を発揮できないのは当たり前」という声が大半を占めていますね。

 

 

さて、何が正解かと言うと「寒さでバッテリーが力を発揮できないのは当たり前」が正解です。

つい最近、このブログでもそのことについて書きました。

(最近だと思っていたけど今見たら既に一カ月前でした。光陰矢のごとし。)

 

 

このことについてAppleのホームページにはどのように書いてあるでしょうか?

http://www.apple.com/jp/batteries/maximizing-performance/

ここを見てみると、0℃から35℃で使えるけど、最適なのは16℃から22℃と書いてあります。

 

内容をそのまま引用します。

”温度が非常に低い環境でデバイスを使用する場合もバッテリー駆動時間が短くなることがありますが、この状態は一時的なものです。バッテリーの温度が通常の動作範囲内に戻ると、パフォーマンスも通常の状態に戻ります。”

 

と言うことなので、低温ではやはりバッテリーの駆動時間が短くなることがあるのが分かると思います。

 

 

では、低温でバッテリーが力を発揮できないのは何故でしょうか?

リチウムイオン電池に詳しい株式会社ベイサンさんのホームページです。

http://www.baysun.net/ionbattery_story/lithium10.html#story10

 

ここも引用します。

”低温側で電圧が低下していく原因を簡単に言うと、放電中のリチウムイオンの移動が低温では動きにくくなり、 これはセルの内部抵抗が上昇したことになります。このため、電圧ドロップが増加して電圧が低下するものです。”

 

ベイサンさんのホームページに【放電温度特性】というグラフがありますね。

細かいことを言っても難しいと思いますが、明らかに青のラインだけ他とは違いますね。

これは、-20℃で使った場合のラインです。

名古屋市内あたりで-20℃になることはそうそうないと思いますが、北海道とかに行けばあり得るかもしれませんね。

 

その一つ上の緑のラインは0℃で使った場合です。0℃でもその上の赤いライン(20℃)とは少し違うことが分かります。

0℃であれば名古屋市内でも十分にあり得ますね。

0℃と20℃の中間温度がここでは示されていませんが、当然5℃でも20℃よりは低い結果になるだろうと予測されます。

 

 

ここまでで、寒くなると電圧が低下するということは分かったと思いますが、iPhoneのバッテリーはどのぐらいの電圧なのか?またどのくらいの電圧になると電源が切れるのか?を見ていきましょう。

iPhone6バッテリー
iPhone6バッテリー拡大

このバッテリーはiPhone6のものです。

右の拡大したものをみるとリンゴマークの下の2段目に3.82Vというのが見えます。

これは、公称電圧と呼ばれるもので、普通の状態ではこのくらいだよという目安の数字です。

ただし、充電が沢山あれば3.82V以上になり、充電が減ると3.82V以下になります。

なので、電池を取り出して電圧を計測して3.82Vより少ないからといって壊れているという判断はできません。

 

もう一度、株式会社ベイサンさんのホームページを見てみましょう。

http://www.baysun.net/ionbattery_story/lithium14.html#story14

リチウムイオン電池には保護回路があって云々…

「過放電」のところをみると、

リチウムイオン電池は0.6V以下になると回復できない劣化が発生する。

2.3V以下で放電するとすぐに0.6Vを下回ってしまう。

なので、2.3Vで放電を停止するようになっている。

ということが書いてあります。

 

 

では、iPhoneはどういう感じなのか。

実験してみました。

(詳細な仕様などは公開されていないので実験するしかないのです。)

iPhone6バッテリー電圧推移グラフ

この図は、当店で実験したデータをグラフにしたものです。

 

iPhoneの表示上の充電残量0%から100%までの間を充電しながら5%刻みでバッテリーを取り出し、電圧を計測しました。温度は計測していませんが、イオンモール館内なので快適な温度です。

 

結果、充電残量が0%の時は約3.6Vで、充電量が増えると電圧も上昇し、50%ぐらいで公称電圧の3.82Vに近くなり、100%の時は約4.3Vでした。

iPhone6以外のバッテリーもほぼ同じ推移でした。

 

 

ということで、おそらくiPhoneでは3.6Vに到達すると電源を切る仕組みになっていると思われます。

それは、ベイサンさんのホームページにもあるように電圧が下がり過ぎると回復不能に陥ってしまうからです。

なので、バッテリー容量を使いきらないように(早めに)途中で止めて、でも「使いきったよ」と嘘をついて充電を促してくるわけです。

(余談ですが、水没や落下などで保護回路が壊れてしまったら、放電が停止されずに回復不能になる可能性があると思います。)

 

 

3.6V。

再度ベイサンさんのホームページの【放電温度特性】のグラフをみると、細かい数値は書いてありませんが、0℃の場合は1600mAhあたりで3.6Vに到達し、20℃の場合は1900mAhで3.6Vに到達します。

iPhoneにとっては、3.6Vに到達する=充電0%表示だと思われるので、低温下では余力を残した状態で0%と表示されてしまうということが分かります。

 

 

 

ということで、長くなりましたが「寒さでiPhoneが死ぬ」のは仕方ない、という話でした。

まあ、温めれば復活するので「死ぬ」は大げさですけどね。

以上です。